『英国のスパイ』をガイドブックとする、いながら旅第７シーズンも、この投稿が最終回です。第３部からいながら旅を続けます。いよいよガブリエルの命を狙ったエイモン･クインと対決します。そして、相棒ケラーが「英国のスパイ」として故郷に･･･
第３部 無法地帯
60 ヴォクソール･クロス、ロンドン
ロザノフの死から１時間ほどたったころ、グレアム･シーモアのもとに、ケラーから連絡が入ります。シーモアは、プライベートジェットを送って、ロンドン･シティ空港経由でガブリエルとケラーをヴォクソール･クロスに呼び寄せます。同空港は、ロンドン東部のドックランズにある、ロンドン市内に一番近い空港です。
ガブリエルは、ブラックベリーを取り出し、ロザノフがランカスター首相の暗殺計画を白状した音声データを再生し、更に、ＭＩ６の人事･保安課に勤務するアーサー･グライムズがロシアに雇われたスパイだと明かした音声も聞かせました。
その日の午前９時、ＭＩ５のチームがテムズ･ロード22番地の倉庫を急襲。しかし、車は１台も見当たらず、爆弾が作られた形跡も一切ありませんでした。一方、フリートウッドのネットカフェからはクインとカテリーナが使ったパソコンを押収し、ＭＩ５のラボに持ち込まれます。
アーサー･グライムズについて尋ねると、シーモアは、ＭＩ６の現職員と職員候補の審査が彼の仕事で、二、三日前にケラーのことを話したこと、彼はセキュリティ違反についての調査も担当しており、本当にロシアから金を受け取っているのなら、オルドリッチ･エイムズ以来の大きなスキャンダルになると語りました。
そこへ、ユーリ･ヴォルコフが昨日乗った地下鉄の同じ車両にグライムズが乗っていたとの報告が入り、シーモアは、やつから一瞬たりとも目を離すなと言い放って電話を切ります。ガブリエルとケラーを見て、チャンスがあるうちに退職しておけばよかったと呟きました。グライムズを尋問する許可を求めるガブリエルに、シーモアは、ＭＩ５のラボでコンピュータを解読できるか午後２時まで待って、成果がなかったら、グライムズと直接対決だと答えます。
61 ブリストル、イギリス
ブリストルの〈クリブス･コーズウェイ〉という大型ショッピングモールに着いたクインとカテリーナは、〈マークス＆スペンサー〉の外で、外交旅券を持つロシア人男性２人がハンブルクで射殺され、２人が行方不明とのニュースを聞きます。カテリーナは、ロザノフは今ごろ尋問されたか殺されており、こちらの居所もガブリエルに知られていることも覚悟すべきと話します。
モスクワ･センターと自分の身代金の交渉をして、一刻も早くイギリスを出るよう主張するカテリーナに、クインは、その前に一つ片づけておきたい用があるとして、ここで少し買い物をしてウォーキングに出かけると話します。
62 ダウニング街10番地、ロンドン
正午少し過ぎ、シーモアは、ダウニング街10番地に出向き、ランカスター首相にクインが次なるテロを計画しているのは確実と報告します。しかし、首相は、IRAのテロリストに脅されたぐらいで予定を変更する気はないと言い、今回は逮捕はなしで、復讐を遂行してくれる人物を見つけてクインに近づけろと指示します。
シーモアがヴィクソール･クロスに戻ると、ガブリエルとケラーが待っていました。午後２時になった瞬間、シーモアがテムズ･ハウスに電話を入れますが、コンピュータの検索にはもうしばらくかかるとアマンダが答えます。シーモアは再び受話器を取ってグライムズに電話をかけます。「アーサー。グレアムだ。君がつかまってよかった」とにこやかな声で
アーサーと呼ばれたのが気になりました。グライムズは、ヴィクソール･クロスの殆どの者から〈人事課〉という部署名で呼ばれています。こちらの正体が露見したのか。シーモアが待つのとは反対側のドアからテラスに出ました。冷気が頬を打ち、安らぎを与えてくれる中、冷静に考えをめぐらせます。有罪の証拠は何もない。切り抜けてみせると。
ところが、背後でドアの開閉する音がして、シーモアから偽りのにこやかさを込めて「アーサー、何をしているんだね。みんな君を待っているのに」と言われ、グライムズは、向きを変えて走り出し、手すりを乗り越え、空を羽ばたき、地面に激突しました。
63 コーンウォール、イギリス
クインとカテリーナは、コーンウォールのヘルストンをめざして西へ向かいました。近くにヨーロッパ最大級のヘリコプター基地であるカルドローズ海軍航空基地があります。高い金網フェンスに沿って車を走らせるうちに、クインは胸が締めつけられ、哨戒ヘリの姿を見て、不意に南アーマーの無法地帯に戻ったような気がしました。
飛行場の５キロほど南のマリオンという村。案内板に従って進んでいった先には、〈オールド･イン〉というレストランがありました。
レンダー･レーンという小道の向かいにある駐車場に車を停め、二人はそこでハイキングブーツを履き、防水コートをはおって観光客になりすまします。
泊まっていることにしたのは、マラジオンにある〈ゴドルフィン･アームズ〉でした。
沖合に見えているのは、干潮時に人工の花崗岩の道で繋がり、歩いて行けることから、英国版モン･サン=ミシェルとも呼ばれる、セント･マイケルズ･マウントです。
二人は、マリオン村をあとにしてポルデュー･ロードを歩きます。作中にあるように、１kmほど行ったポルデュー･コーブの砂浜に差し掛かったところには、自然歩道（ナショナル･トラスト）を示す標識があります。
ポルデュー･ビーチまでサウスウェスト･コース卜･パスを北へ行き、マリオン･ゴルフ･クラブのへりに沿って進むと、聖ウィンワロー教会という古い教会があります。歴史的建造物に指定されています。
二人は観光客らしく見せるため教会を見学します。教会入口に立っているのは、ランデヴェネック修道院の創設者である、聖ウィンワローの像で、崖の方には鐘楼が建っています。
内部は３つのホールに区切られています。
その後、ガンワロー入江を目指して北へ歩き続けます。入江の南端の崖の上にぽつんと立つコテージを見て、クインは「あそこだ」と言いました。車寄せに車が２台。崖の上を男が二人の方に歩いてきます。濃紺のウインドブレーカーの下に銃を隠し持つ軍人上がり。二人はたわいのない会話をしながらすれ違い、歩き続けます。
車寄せの車の中を盗み見ながらコテージを通り過ぎます。コテージの向こうには、緑の野原のへりに沿って海辺の小道が延びています。
崖の先端で足を止め、下の入江を覗くと、女が金色の砂の上を歩いていました。女から離れて、荒波に向かって釣り糸を投げている男と、先程出会った軍隊上がりの男と同じ色のウィンドブレーカーを着た男が見えます。
カテリーナは、波打ち際を歩いてくる女に目を凝らし、「彼女よ」と言いました。
64 ガイズ病院、ロンドン
アーサー･グライムズの自殺の後、シーモアは再びランカスター首相に視察を思いとどまらせようとします。首相は視察の実施を譲りませんでしたが、ガブリエルとケラーを警護に付けることには同意します。警視庁のBMWが二人を直接サザークのザ･シャ―ドと呼ばれる近未来的な超高層ビルの傍まで送り届けます。
ガブリエルとケラーは、ガイズ病院の正面入口まで行きました。シーモアに電話すると、首相到着まで残り２分、パソコンのデータ検索にはもうしばらくかかるとのことでした。
特別仕様のジャガーのリムジンが到着し、首相が降り立って、握手を始めます。ガブリエルとケラーの方を見て一度だけうなづき、病院の中に入りました。
65 ガンワロー入江、コーンウォール
同じ頃、カテリーナは、古びた教会の近くでクインを降ろし、車を入江の上の駐車場に停めて、スコルピオン･サブマシンガンを携えて砂浜に着きました。
入江で釣りをする男に近付いたとき、携帯が振動し、“煉瓦は壁のなか……”というメッセージが表示されます。クインは自分の犯行であることを誇示せずにはいられない男らしい。カテリーナは、伸ばした両手にスコルピオンを構え、弾丸を発射しました。
砂の上で砕けた波はＭＩ６の警護担当者の血で赤く染まりました。彼女は駐車場を目指して小道を上り、ルノーのエンジンをかけてコテージに向かいました。
66 テムズ･ハウス、ロンドン
パソコンのデータ検索の結果を見たＭＩ５副長官マイルズ･ケントは、最後のメールに書いてある住所が気になり、データベースで検索したところ、とんでもないものと一致。ガブリエルが前に住んでいたコテージだったのです。アマンダは、ケントの進言に従い、シーモアに電話をかけます。
シーモアは、隠れ家で女性を警護する連中に連絡を入れますが、どれも応答がありませんでした。それで、ガイズ病院の講堂にいるガブリエルに連絡を入れ、ターゲットが首相でなかったこと、バタシーのヘッリパッドでヘリがガブリエルとケラーを待っていることを伝えました。
67 コーンウォール西部
マデラインの耳には銃声は届かず、コテージの壊れた玄関ドアからサブマシンガンを手にした男が飛び込んできて、彼女のみぞおちに男のこぶしがめり込みました。両手を縛られ、粘着テープで口を塞がれ、黒いフードを被せられ、男ともう一人の侵入者によって車のトランクに押し込められました。
マデラインには、車がどこに向かっているのか推測できませんでした。自分の拉致はガブリエルの命を狙った陰謀とたぶんつながっているのだろうと考えます。男の方はアイルランド訛りがあり、エイモン･クインに違いない。もう一人の方は女で、前に聞き覚えのある声。目を閉じると、遠い過去のドイツの村の公園のベンチに座る二人の少女の姿が浮かんできました。いつの日かろくに知りもしない国のためにスパイ活動をすることになっていた二人。今、ロシアはその片方にもう一方を殺害させようとしている、そう感じたのです。
20分程経って車が止まり、トランクから抱えあげられました。海辺を歩かされ、小型船に乗せられます。
68 ガンワロー入江、コーンウォール
テムズ川南岸のパタシーのヘリパッドは、1959年に開業した、ロンドンで唯一の認可ヘリポートで、現在はロエドミストン･ロンドン･ヘリポートといい、ガイズ病院から車で20分ほどです。
ロースロイス･ノーム･ターボシャフト･エンジン搭載のウェストランド･シーキングは、ガブリエルとケラーを乗せて最高速度でイギリス南部を横断。ガブリエルは、ヘリをガンワロー入江に直行させます。
入江の北端でヘリを降りると、二人は砂浜を走りました。
犯行現場に立つ刑事にケラーは初めてＭＩ６と名乗ります。コテージの中に入ると、フレイジャー警部と名乗る刑事が変則的なやり方に不満顔で状況を説明しました。被害者は、１人は入江、２人はコテージの外、４人目は海岸沿いの小道で銃撃されており、マデラインに関する情報はありませんでした。午後３時過ぎ、助手席に女を乗せ猛スピードで北へ向かって走り去るルノーが目撃されていました。
ガブリエルは、男はかつてのIRAメンバーで爆弾作りの名人エイモン･クイン、女はカテリーナというロシアの諜報機関が送り込んだ殺し屋だと話し、西海岸に捜査を集中し、アイルランドへ向かうフェリーに乗り込む全ての車のトランクを調べるよう指示しました。
69 ガンワロー入江、コーンウォール
その夜、コーンウォール北海岸にあるウェスト･ペンタイア近くの入江のそばでルノー･セニックが見つかります。刑事が去って、ケラーの二人だけになります。クインが安心できる場所、周囲の環境とそこで活動する連中になじめる場所に心当たりはないかと言うガブリエルに、ケラーは、無法地帯しか思いつかないと答えます。ガブリエルがこちらにもストラトフォード･ガーデンズ８番地という有利な点があると言うと、ケラーは、それが再び我々を襲撃するためのクインの狙いかもしれないと返します。
最後にもう一度だけコテージを見たガブリエルは、ここに戻ってくることは二度とないだろう、クインに奪われてしまった、タリクにリーアとダニを奪われたのと同じく、いまや個人的な問題になってきたと感じるのでした。
70 ダウン州、北アイルランド
クインは、IRAの元メンバーのジャック･ディレイニーが操縦する漁船に乗ってセント･ジョージ海峡を渡り、バリホーナン村の200ｍ沖合にある緑の無人島ガンズ島を通り過ぎ、ストラングフォード入江の入口の岩だらけの岬を回ります。
キルクリーフ城のシルエットが見分けられるようになり、ライトの点滅の合図の方角に向かい、救命ボートで城の北のショア･ロードの入江に入ります。カテリーナに手伝わせてマデラインを降ろしました。
プジョー508を停めて待っていたのはビリー･コンウェイ。トランクにマデラインを押し込み、カテリーナを助手席に座らせ、クイン自身はリアシートで銃口をカテリーナの背中に向け、西のダウンパトリックへ向かいました。マデラインが首相と関係を持ったロシア女であることを明かすと、コンウェイは人質を連れてきたことを非難します。
クインは、マデラインを南アーマーに閉じ込めておくつもりであることを話し、事前に連絡を入れておくべきだと主張するコンウェイに、だめだと一蹴します。女を連れてきた訳を尋ねると、餌にするためだと答えるのでした。
71 アードイン、西ベルファスト
ベルファスト空港に隣接するアルダーグローブのヘリコプター基地でシーキングを降りたったガブリエルとケラーは、アマンダ･ウォレスが提供してくれた隠れ家に入ります。
翌朝、二人は旧型のフォード･エスコートに乗り込み、尾行の有無を確認してから、７時にクラムリン･ロードからアードインに入り、ストラトフォード･ガーデンズの端で車を止めました。
７時45分にマギー･ドナヒューと娘のキャサリンが出てくると、ケラーに二人を尾行させ、ガブリエルはグロック17を携えて８番地の家に入りました。室内を確認して、キッチンのテーブルに紅茶を入れて待ちました。
ガブリエルは、15分後に帰宅したマギーにグロックを向けて、クインと娘が写っている写真を見せて、大量殺人を繰り返すのを阻止するためクインを捜していると告げます。マギーは、羞恥の表情を浮かべ、言えばビリー･コンウェイに殺されると言いました。
72 クロスマグレン、アーマー州
クインがコンウェイの車を降りたのは、クロスマグレンの〈クロス･スクウェア･ホテル〉の前でした。
著者ノートにあるように、IRAの元メンバーのジミー･フェイガンを訪ねて向かった〈エメラルド･バー〉は実在しませんが、ニュリー通りの〈Hanratty’s Bar〉というバーがクロスマグレン･レンジャーズの黒と琥珀色の旗を掲げています。クインは、フェイガンに逃げ去った男ケラーをターゲットとする奇襲攻撃だと言って、これからの戦闘への加勢を依頼します。
クインは、コンウェイと、フェイガンの農場の小高い場所にある、煉瓦造りのニ階建ての母屋の裏手、かつてケラーを拷問した波形アルミの納屋に、マデラインとカテリーナを閉じ込め、頑丈な南京錠をかけました。
神経をぴりぴりさせたコンウェイは、クインからケラーはもうこっちに来ているはずだと言われ、ケラーが会いに来たらどうすればいいか尋ねます。クインは、ケラーにとってコンウェイは最高の情報源であり、何でも信じるはずだから、いつもやっていたように嘘をつけばいいと答えます。
73 アードイン、西ベルファスト
ケラーが入っていくと、キッチンでガブリエルとマギーがテーブルを囲んでいました。マギーは数分前まで泣いていたようですが、ベルファスト特有の自制と不信の表情に変わっていました。
ガブリエルは、ケラーに、マギーから聞いた、コンウェイに脅されて使い古した紙幣、男物の衣類、写真１枚などを置くことになった経緯を話し、彼女がクイン捜しに協力してくれることになったと話します。
74 クロスマグレン、アーマー州
フェイガン農場の納屋。暗闇の中、マデラインは、ようやくフードと口の粘着テープが外されます。
ライターの炎の中にリスボンで撮られた写真と同じ顔が見え、カタリーナにこれから先どうなるのかを尋ねます。二人は昔のことを話し始め、お互い相手のようになりたかったと語ります。
75 ユニオン通り、ベルファスト
正午過ぎ、ビリー･コンウェイがユニオン通りの〈トミー･オボイルのバー〉に行くと（写真は第18節で紹介したユニオン･ストリート･バーの店内）、元IRAメンバーのローリー･ガラハーから客が来ていると告げられ、奥のオフィスにケラーが待っていました。ケラーは、幽霊を見たような顔で凍りついたコンウェイを外へ連れ出します。
同じころ、南アーマー旅団は、ケラーが戻ってきたことで、クインとフェイガンを囲んで急遽集まりを開きます。12時15分にガラハーからメールが届き、ケラーとアロンがもうじきやってくるとわかり、クインは微笑します。
ケラーは、片方の端に教会があり（セント･パトリック教会のことです）、反対の端に赤煉瓦の工業用建物が並んでいるヨーク･レーンまでコンウェイを連れ出し、防犯カメラに映らない場所に止めたガブリエルの車の助手席に押し込みます。ガブリエルは、クインの行方を知らないと言うコンウェイの鼻にパンチを見舞い、車を出します。
フォードに仕掛けたGPS発信機で車の動きを監視していたアマンダ･ウォレスとグレアム･シーモアは、拡大処理された防犯カメラの画像により、二人がビリー･コンウェイを拉致したことを知ります。そして、車が高速道路M2に入って北に向かうのを見守りました。
76 クレッガンの森、アントリム州
二人は車で北のラーンへ向かい、カーンロウ･ロードを内陸へ、キリカーン･ロードで北を目指しました。写真は、グレナームの手前のコースト･ロードです。
クレッガンの森は、アントリム州東部のアントリム高原の南端に位置する大きな森林で、原文には Creggan とありますが、Cleggan が正しいようです。ガブリエルに車を止めさせたケラ―は、銃口をコンウェイの後頭部に押し付けて、裏切り者となじり、マギーの居所を教え、彼女を脅してクインの妻と娘に仕立て、札束や千切れた電車の切符、リスボンでの写真などの小細工をした事実を突き付けました。
コンウェイに車から降りるよう命じて、クインが連れてきた二人の女の居場所を尋ねます。コンウェイは南アーマーのフェイガンの農場の納屋に自分が閉じ込めたと白状します。最後に、ケラーが恋仲だった女のことをクインに教えたのが誰かを尋ねます。銃を突きつけられたコンウェイが自分だと明かすと、ケラーは憤怒のあまり記憶のないまま引き金を引くのでした。
77 ランダルズタウン、アントリム州
ランダルズタウンのはずれ。携帯にシーモアからコンウェイが車に乗っていない理由を尋ねる着信があり、監視されていたことがわかります。
ケラーは、これまでのクインのやり方からすれば、マデラインは間違いなくフェイガンの納屋にいると断言します。フェイガンの農場は、キャッスルブレイニー･ロードにあり、土地の一部が国境に接していて、納屋は広い牧草地の端にあるとのことですが、同ロードと国境線が交わる場所（地図中の黄色〇印）はクロスマグレンからはかなり外れています。
車は、M22道路から高速道路A6を西へ進み、キャッスルドーソンから南へと移動。シーモアは、行き先を尋ねるメールに返信はないものの、すべてが始まったフェイガンの農場に向かっていると推測します。アマンダの助言によりケラーの携帯の盗聴機能をオンにすると、ちょうどガブリエルがクインとタリクが知り合った経緯を説明しているところでした。それを聞いたシーモアは、もはや二人を止めることは無理だと感じるのでした。
78 クロスマグレン、南アーマー
ガブリエルとケラーは、クックスタウンで地図と靴墨、ナイフを手に入れます。写真は、町の南側にある、〈ASDA〉というスーパーマーケットです。
オマーとキャッスルブレイニーを経由して、マックノ湖の南端を回り、クレアベーン川の土手のところで鬱蒼とした茂みに車を停めました。
ケラーがシーモアに電話をかけて援護を依頼すると、シーモアは、彼らの居場所を言い当て、援護チームを既に手配済みであるとして、地図と靴墨、ナイフのレシートを提出しろと答えるのでした。
午後４時半、クインとフェイガンが農場内に12人の狙撃手、南アーマーのあちこちに８人の斥候を配置したころ、ガブリエルとケラーは、靴墨で顔を黒くしてクレアベーン川の土手沿いに出発します。
国境まで来ると、北へ向きを変え、１Km程進んだところで二つの池にはさまれた石ころだらけの道を横切ると、木立の向こうにフェイガンの農業が見えてきます。土地の一部が国境に接しているというケラーの発言から、〇印の場所ではないでしょうか（クレアベーン川と国境線との交差点から二つの池まで２Kmを超えますが）。
木陰に身を隠しながらゆっくり前進すると、10ｍ程先の暗がりにAK47を構えた男が見えました。ケラーは、ヴィクソール･クロスにメッセージを送信してから、ナイフを取り出してじっと待ちました。
アマンダの電話でクロスマグレンのパトカーが出動し、偵察係から連絡が入りだします。７時半過ぎ、フェイガンからの警戒指示のメールに反応してAK47から右手を放したのを見逃さず、ケラーは、マギルという名の男を押し倒し、喉にナイフを突き立てました。マギルから返信がないことから、二人の来訪を察知したクインは人質の殺害と二人の捕獲を命じます。
79 クロスマグレン、南アーマー
フェイガンの納屋では、納屋の扉からマデラインに銃口を向けた男の首にカテリーナが錆びついた大鎌を振り下ろしました。男は引き金を引いていましたが、弾丸はマデラインの頭をかすめ、カテリーナは、AK47を奪って他の二人の男を銃撃します。
マデラインを立たせて納屋を出ると、外は銃撃戦の真っ最中。カテリーナは、片膝をついて一人ずつ狙撃していきました。地面に伏せさせたはずのマデラインの姿はなく、彼女はガブリエルとケラーのいる方に向かってよろよろと近付こうとしていました。カテリーナが振り向いてクインの姿を捜した瞬間、彼女の胸に弾丸が命中し、痛みを感じることもなく死が訪れました。
マデラインがガブリエルの腕の中に倒れこんだ時には銃撃戦が終わっていました。ケラーがフェイガンの家に入ると、そこには額の真ん中を撃ち抜かれたジミー･フェイガンだけがいました。ずる賢いクインはまたしても戦場から逃げ去り、その姿はどこにもありませんでした。
第４部 故 郷
80 南アーマー ＿＿＿ ロンドン
南アーマーの緑の丘で男が８人殺されました。６人は銃で、２人はナイフで。クロス広場に立つ追悼碑に８人の名前が追加され、聖パトリック大聖堂の墓地に８つの墓が加わりました。村人はクインを見つけ出して報復の弾丸を見舞おうと決心しました。
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同じ日、ロンドンでは、シーモアがコーンウォール西部のコテージでＭＩ６の警護担当者４名が殺害されたこと、また、ＭＩ６の人事課職員がヴィクソール･クロスのテラスから飛び降り自殺したことを発表します。しかし、ビリー･コンウェイがアントリム州の森の奥で死体となって発見されたことや、メイヨー州の国境線を越えたところで、リーアム･ウォルシュの腐乱死体が発見されたこと、そして、ドイツのハンブルク郊外でアレクセイ･ロザノフの死体がロシアのパスポートを口に押し込まれて発見されたこと、一連の事件がロシアの凍った湖の畔で起きた殺人から、プリンセスの暗殺、そして南アーマーの流血騒動へと、一本の線で続いていることに気づいた者は誰もいませんでした。また、プロンプトン･ロードの爆弾テロで亡くなったとされるイスラエルの伝説の工作員と結び付ける者も。
ガブリエルは、ハーフォードシャーの田園地帯に立つ赤煉瓦のヴィクトリア様式の荘園館を訪ねます。かつてのＭＩ６の新人研修施設の建物で、現在はマデライン･ハートが滞在しています。写真は、アストン･ベリーの荘園館です。コーンウォールに戻ることはないだろうというガブリエルに、彼女は自分のためにめちゃめちゃになってしまったことを謝ります。そして、カテリーナが自分とガブリエルの命を救ってくれたのだと話すのでした。
ガブリエルは、マデラインに別れを告げ、ロンドンのハイゲートで最も優秀な政治記者に未払いだった莫大な謝礼を渡し、イスラエル大使館の車のリアシートに乗り込みます。彼は、国に帰る前にあと一つ、最後の修復が残っていると考えるのでした。
81 ヴィクトリア･ロード、サウス･ケンジントン
錬鉄の門があり、白い玄関ドアまで石段が続く小さな家。家の奥には、新聞を読むロバート･ケラー医師とその肘のところに紅茶のカップを置く初老の女性。落ち着かずに煙草を吸い、両親に何と言ったらいいかアドバイスを求めるケラーに、ガブリエルは、本当のことを少量ずつ話すといいと言い、ケラーがＭＩ６の仕事をすることを両親も誇りに思ってくれるだろうと話します。思いきれないケラーに好きなだけ時間をかけていいとも。
ケラーが家の方へ目を向けると、ケラーの母が待ちくたびれたような表情。ガブリエルはあらかじめケラーが帰ってくることを知らせてあったようで、御両親が待ちくたびれているぞとケラーを送り出します。ケラーが玄関を開くと、両親が立っており、互いに体を支え合うのでした。
82 ナルキス通り、エルサレム
同じ夜、ハマスのロケット弾が飛来する中、ガブリエルはベン･グリオン空港に到着します。
エルサレム郊外のナルキス通り16番地のアパートメントに戻ったのは早朝でした。彼の住まいについては、第６旅（第30節）で詳しく紹介しましたが、彼のアトリエだった予備の寝室にはベビーベットが２つ用意されていました。
翌日、シャムロン夫妻が食事に来るというので、夕方、ガブリエル者は、警護チームの車を従えて、夕食に必要な食材を買いに、北方に少し行った市場に出かけました。1887年に設立され、設立者の一人の兄弟イェフダに因んで名付けられたマハネ･イェフダ市場は、食料品を中心とした250以上の店舗が集まり、「エルサレムの胃袋」とも言われる大きな市場です。
アパートメントに戻ると、シャムロンと妻のギラーが来ていました。ガブリエルは、料理を並べると、ワインを持ってシャムロンのいるテラスに出ます。二人で色々と話をした後、シャムロンが帰郷は想像通りだったかと尋ねると、南の空の閃光を見上げたガブリエルは、まさに想像したとおりと答えるのでした。
83 ナルキス通り、エルサレム
ガブリエルは、復帰を先延ばしにしてキアラのためにまめまめしく働き、通院にも付き添いました。ただ、待ち続ける単調な時間に耐えられなくなり、子供部屋の壁面を手直しすることの許可をキアラに求め、ティツィアーノ風の輝く雲を描いていきました。例えば、ロンドンのナショナル･ギャラリーが所蔵するティツィアーノの《バッカスとアリアドネ》のような雲でしょうか。
キアラが描いた雲を子供っぽいと言って手直ししたので、ボストンのイザベラ･スチュワート･ガードナー美術館に所蔵されているティツィアーノの《エウロベの略奪》の雲も考えられます。
そして、一番高い雲の端に、第６旅で修復を行ったヴェロネーゼの《聖人に囲まれた栄光の聖母子》から借りた、下をのぞき見る男の子の天使を、亡くなった夜に見た息子ダニの顔で、涙ぐみながら描き加えるのでした。第６旅（第58節）にも、ダニにそっくりな巻き毛の天使を修復して涙する場面がありましたね。
その日、ロンドンの『サンデー･テレグラフ』は、プリンセスの暗殺、プロンプトン･ロードの爆弾テロ、コーンウォール西部でＭＩ６の警護担当者４名が殺害された件、北アイルランドのクロスマグレンの流血騒動に、ロシアの対外情報庁が関与しているとの特ダネを載せました。莫大な利益をもたらすはずだった北海油田の採掘権を奪われたことと、ランカスター首相と関係のあったロシアの女スパイが亡命したことへの報復で、命令を下したのはロシア大統領、ドイツで遺体となって発見されたSVRの高官アレクセイ･ロザノフが実行指揮者、実行した工作員はオマーの爆弾テロ犯から国際的傭兵に転身したエイモン･クインとも指摘していました。
84 マウント･ヘルツル、エルサレム
ガブリエルは、オリーブ山の墓地を訪ねた後、マウント･ヘルツル精神科病院（ヘルツォーク病院のこと）にリーアを見舞いました。現実と幻想が入り混じる彼女に会話を合わせていましたが、どこへ行っていたのか尋ねられ、タリクの爆弾作りに手を貸した男を捜しに出かけていたと答えます。彼女は励ますようにガブリエルの手を握りしめ、長い時間がたったが、何も変わっていない、自分はずっとこのまま、そして、あなたは別の人と結婚したままと呟きました。
ナルキス通りの家に入ると、玄関ホールにガブリエルが詰めたスーツケースが置かれていました。今夜病院に行くとキアラに言われ、ガブリエルはブロンズ像のごとく立ちつくした後、慌てて彼女を支えて階段を下りて車に乗り込むのでした。
85 ブエノスアイレス
シーモアがその任務に回した職員は一人だけでした。ケラーはいくつもの名前を使って旅をしました。リオ･デ･ジャネイロでクインと関係のあった女からブエノスアイレスを調べてみるように言われ、サン･テルモ地区の南にある〈ブラッセリー･ペタンク〉というレストランでコックをしていることをつきとめます。
クインの住まいは、角を曲がった先にある、サンジェルマン大通りから移築したような建物の３階の309号室。ケラーは、管理人に金を握らせて手に入れた合鍵で部屋に入って待ちました。
夕方、通りの向かいのカフェ（〈Café Martínez〉のことでしょう）にクインが姿を現します。テーブルについた顔には以前の面影は全くありませんでしたが、ステーキにナイフを入れる手つきが男の正体を示していました。ケラーは、超小型望遠鏡を通してクインが最後の食事をするのを見張りました。
食事を終えたクインが通りを渡りました。ケラーは、玄関ホールへ移動して両手で銃を構えると、しばらくして鍵穴に鍵を差し込む音がしました。
クインがケラーの顔を見ることはなく、２発の弾丸の衝撃を感じることもありませんでした。１発はエリザベス･コンリンのため、もう１発はダニ･アロンのため。即死だったことだけを、ケラーは残念に思いました。
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第７シーズンのいながら旅は、以上で完結です。次の旅では、また別の作家の作品を取り上げますので、楽しみにしてお待ちください。
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